がうす通信第92号(2008/8/10)


札幌 「基地局の設置は所有者全員の合意必要」

札幌地裁が画期的判決 ソフトバンク裁判で

札幌地裁は5月30日、携帯電話基地局を分譲マンションに設置するには区分所有者全員の合意が必要だとする判決を下した。
  札幌市郊外の定山渓にあるRリゾートマンション(77戸)に計画されていたソフトバンクモバイルの基地局建設について争われていた裁判で、マンション管理組合が一度は結んだ契約に対して健康影響などを懸念する住民が契約の白紙撤回を申し入れた。これに対してソフトバンク側が管理組合に対して工事妨害禁止を求め訴えていたもの。

判決は電磁波の影響にも言及

判決文では「共有部分は区分所有者の共同の利益のために設置されているものであり、第三者に賃貸することは、その本来の目的に従ったものとは言い難い」ことなどを考慮すると、「このような行為は、本件管理規約や区分所有法に基づいて決するのではなく、民法の原則に基づいて、共有者が全員でこれを行なう必要がある」としている。
  また、電磁波による人体への影響が科学的に裏付けられているかどうかはともかくとして、それを問題視して本件設備等の設置に反対する人間が一定数存在することは明らか」なので、「建物の市場価格に影響を与える可能性も否定できない」としている。
  契約の対象となる場所が、区分所有者の使用があまり予定されていない屋上などであること、屋上の面積からすると、使用面積が広くないことなどを考慮しても、この契約や基地局設置が「区分所有者に与える影響が軽微であるということはできず、実質的にみて処分行為にあたらないということはできない」としている。つまり、契約や基地局設置は処分行為にあたる、と判断したものである。処分行為とは、財産の権利を売却するなど法律的に変更したり、目的物(建物)の現状や性質を変える行為。
  「本契約は、建物を目的とした賃貸契約であり、かつ、その期間も10年間に及ぶから、原則として、区分所有者の全員でこれを行なう必要があるところ、本件でそれを満たしていないことは争いがない」「区分所有者全員で締結する必要があるから、議決権を満たしたかどうかを検討するまでもなく、無効」として、ソフトバンクの請求を棄却した。
  管理組合代理人の馬場弁護士は、「電磁波の有害性を意識した判決だ」と評価した。一方、ソフトバンク側は6月13日に控訴した。

基地局設置の経緯

ソフトバンク(当時はボーダフォン)の基地局建設計画が持ち上がったのは、2005年10月のことだった。Rリゾートマンションに基地局建設を持ちかけたのは、三和コムシス・エンジニアリング。同社はボーダフォンの代理業者で、主にボーダフォンの携帯電話基地局の設置場所を探すことから、設置交渉、工事まで請け負う業務を行ってきた。同社の業務の8割が携帯電話関連だという。
  定山渓地区に基地局を建てたいというソフトバンクの要望を受けて、05年9月上旬、同社はRマンションの管理組合理事Y氏と交渉に入った。基地局設置が理事会で承認された後、11月の臨時総会に諮ることが決まった。臨時総会では59票の賛成多数で承認され、12月21日から工事が始められた。
  Rマンションはリゾートマンションで、通年居住者は数人しかいない。総数77名のうち、臨時総会に参加したものも12人に過ぎず、委任状や議決権行使書を提出した人が大半だった。
  臨時総会で基地局を設置することで年に60万円の賃借料が入ることは知らされたが、屋上に設置される基地局の重量や高さ、電磁波の周波数などは、一切説明されなかった。臨時総会に参加したO氏は、「携帯電話会社から説明があるまでは判断できないので棄権する」と主張したが聞き入れられなかった、と裁判で証言している。
  O氏によると、当日は他にも議題があったが、なぜか基地局の決議だけ「反対の人は手を挙げるように」理事に指示されたという。議決に疑問を持ったO氏が調べてみると、委任状や議決権行使書の数え方に間違いがあり、「反対にも賛成にも印がない議決権行使書など、無効票と考えられるものが10票あった」ということである。
  O氏の計算では、実際の賛成者は45名で、過半数を超えているものの、共有部分の大きな改変に必要な4分の3(58名)には達していない。ソフトバンク側は、基地局設置は特別議決事項ではないので、過半数の賛成で可決されたと解釈するべきだと主張してきた。

隣接マンションからも疑問の声が

Rマンションには、心臓に障害のある70歳の女性も住んでおり、基地局から発生する電磁波が体に悪影響を与えるのではないかと心配していた。約35メートル離れた場所には中学校があり、近隣にはマンションや住宅が建っている。やがて、Rマンションに基地局が設置されることを知った近隣住民からも、電磁波の安全性について疑問を持つ声があがった。
  設置工事着工5日前の12月17日、ボーダフォンは、隣接するNマンションで住民説明会を開催した。これはNマンション住民の要請で開催されたものだが、ボーダフォンはRマンション住民には説明会開催を知らせていなかった。
  同社の姿勢と基地局建設に疑問を感じたRマンション住民は、翌06年1月4日に北海道総合通信局に、1月8日にはボーダフォンに苦情申し立てをし、工事は一時中断された。
  Rマンションでボーダフォンによる説明会が初めて開催されたのは2月25日になってからだった。ここでは、理事を除くほとんどの住民が建設に反対し、その日の午後に開かれた通常総会では、契約時の理事の責任が追及された。理事は総辞職し、基地局設置に反対する区分所有者が理事に就任、契約の白紙撤回が採択された。
 新理事らは、ボーダフォン北海道支社(当時)を4月から6月にかけて何度か訪問し、電磁波の健康影響を説明されないまま契約が結ばれたことを理由に、契約書の白紙撤回を申し入れ、すでに入金された賃料は返還すると伝えた。配線設備など一部、終了している工事もあったので、現状回復に必要な経費をある程度負担してもよいので金額を提示してほしい、と伝えていた。
 ボーダフォン側は、「本社に持ち帰って協議する」と答えたが、同年10月16日に、工事妨害禁止を求め管理組合を訴えたのである。

  ボーダフォンの日本法人はソフトバンクに買収され、10月1日に、ソフトバンクモバイルへ社名変更している。和解へ向かっていた動きを一転させ、住民提訴に踏み切った背景には、経営陣の変更が関係しているという見方もある。
  マンション管理組合代理人の馬場弁護士は、電磁波については、「有害性の程度が、明確に科学的に証明されていないとはいえ、有害の疑惑の存在自体は、本件建物の使用者にとって心身の健康上、重大な悪影響を及ぼすことは明らかである」と主張し、証人喚問(07年10月5日)の際は、「電磁波のリスクを知らせる文献は多数出版され、雑誌でも発表されているのを知っているか」と訊ねると、ソフトバンクのK氏は「電磁波の危険性はわからない、と言っているのは知っている」と答えた。
  06年10月6日には北海道テレビ放送が、夕方のニュース番組で、Rマンションと札幌市真駒内のLマンションで起きているソフトバンク基地局の反対運動の模様を紹介している。このニュース番組では、ソフトバンク北海道支社の技術課長が「公共のサービスとしては、反対の声があるからといってすぐに撤去することにはならないと思っている」とコメントする様子も流れた。
  注目される中で出された今回の判決は、「電磁波の有害性を意識した判決であり、日本で初の住民が携帯電話会社に勝訴した画期的なものだと言える。
  (以上、加藤やすこさんの原稿を編集させていただきました。)