リニア・市民ネット リニアは夢の乗りものか〜リニア中央新幹線計画を問い直す
 
 
 

自然・環境への影響

◆リニアによる自然破壊

 リニア中央新幹線は、「磁気浮上」による直線走行で日本の中央部の地域と山々を貫くプロジェクトであり、日本の背骨に位置する南アルプス国立公園をはじめ、大規模な自然生態系の改変が行われることは明らかです。山梨リニア実験線の全長42.8kmにおいても、山梨県秋山村から御坂山地を甲府にかけて、その約8割がトンネルであり、都合14の山に穴をあけています。このことについても、地質学的観点、水資源の枯渇など多くの問題が指摘されています。
 また、生態系への影響は、トンネル掘削のみならず新潟県の柏崎刈羽原子力発電所からリニアにエネルギーを送る送電線の鉄塔は、山梨にかけての奥秩父、大菩薩連嶺の山々の頂を大きくえぐり、5寸釘を打ち込んだかのように林立しています。JR東海は、リニア中央新幹線に使う電力量を明らかにしていませんが、その電力量は原発5基分と予測されています。
 このような大規模かつ急激な自然改変は、徐々に、しかし確実に進み、未来の生命を脅かすにちがいありません。

  • JR東海は建設費、所用時間などすべての点で「南アルプスルート」が有力としていますが、「南アルプスルート」とはどのようなルートですか?
  • 南アルプスを貫通する「長大山岳トンネル」は全長22qです。

 山梨県、静岡県、長野県にまたがる「赤石山脈」は通称「南アルプス」と呼ばれ、「巨摩山脈」「甲斐駒―鳳凰山脈」「赤石山脈」の主稜線、「伊那山脈」が平行する広大な山地です。日本列島でも独立した3000m峰が一番多い山脈であり、南北120km、東西40qに及びます。
 「南アルプスルート」では、富士川から大井川、天龍川までの広大な山岳地帯を横断します。赤石山脈においては、現在ボーリング調査が行われた山梨県南巨摩郡早川町「新倉(あらくら)」と長野県下伊那郡大鹿村「釜沢(かまつさわ)」を結ぶと、「塩見岳3046.9m」(百名山)〜「荒川岳3,141m」(百名山)間の下をトンネルで横断することになります。

<南アルプスルート(予測図)>(JPEG:2.2MB)
 JR東海は建設費、所用時間などすべての点でCルートの「南アルプスルート」を有力としています。(ルートの選定については、今年度審議会にて審議中)
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  • 地形、動植物など貴重な自然が残る「国定国立公園」の核心部をトンネルが貫通します。

 南アルプスは日本で氷河が存在した最も南の場所で、氷河とともに南下してきた植物の生息地の南限となり、総面積約35,000haの公園内にはライチョウやキタダケソウなど、貴重な野生動植物が多く生息しています。また、北アルプスよりも300mほど森林限界が高く、2600m付近まで亜高山性森林帯(シラビソやツガなど)の豊かな森に覆われています。地形、動植物など貴重な自然が残された南アルプスの主要部は、1964年(昭和39年)に国立公園に指定されました。しかし、大井川流域の森林帯は「(株)東海フォーレスト」の私有地です。環境省は指定区域を見直して拡張する方針を発表しています。また、長野県側の国有林内には4ヶ所学術参考保護指定地があり、伐採等は禁じられています。

  • 南アルプス中央構造線は日本最大の断層線谷。複数の複雑な地質構造線が並走する地震多発エリアです。

 南アルプスルートには、糸魚川―静岡構造線活断層帯・糸魚川―静岡構造線・笹山構造線・井川―大唐松断層・仏像構造線・戸台構造帯・中央構造線などがあります。

 地球上のプレートはアジア大陸に収斂しており、日本列島には太平洋側とアジア大陸側からのプレートが衝突して、南アルプスの「赤石山地」では地球上では最大規模の衝突ひずみ帯の一つです。東西両プレートから受ける東西圧縮力によって「赤石山地」や「伊那谷」、さらに「中央アルプス」のような大起伏地形が形成されています。
 このような長野県側の南アルプス中央構造線エリアは国内初の「ジオパーク」に指定され、引き続き、山梨県側と静岡県側のエリアも連携して、「世界ジオパーク」も目指していています。

構造線や構造帯とは、異なる地質帯が接している断層で、多くの場合、断層破砕帯崩壊
  の原因ともなる。
ジオパークは、地球活動の遺産を主な見所とする自然の中の公園です。ユネスコの
  支援により2004年に設立された「世界ジオパークネットワーク」を中心に、世界各国で
  推進されています。

  • 南アルプスには「世界自然遺産」登録に向けた推進の動きがありますが、リニアが貫通するとどうなりますか?
  • リニアによる南アルプス貫通は、世界遺産の推進の動きとは矛盾します。両立はありえません。

 山梨・静岡・長野の3県は、南アルプス地域の「世界自然遺産」登録を推進する事業に取り組んでいます。
 リニア計画では、南アルプスのど真ん中を20q横切るトンネル掘削、トンネルの関連土木工事(工事用道路等)、それに伴う膨大な廃土処理、地下水のかく乱、誘発する水汚染や災害、山岳地帯での斜面崩壊、通過地域での地域破壊や環境破壊といった大規模土木改変が行われことが予測されます。これらは世界自然遺産を目指す事業と矛盾しています。

  • 東海沖地震の対策のため東海道新幹線のバイパス化をかかげたリニア中央新幹線の開通は、2027年と発表されています。2025年〜2050年に予測される「東海・東南海・南海」域に発生する大規模地震に備えて、南アルプス山中を走行するリニア中央新幹線は安全なのでしょうか?
  • 在来線の方がより安全です。リニアであったら東海沖地震にも安全であるとは間違いです。

 過去に発生した東海地震では、Cルート周辺では大規模深層崩壊が発生しています。また、長野県の中間駅設置が予定されている飯田地方の盆地内では、震度6弱が予測されています。地震発生に伴う急停車等を考慮すると、在来新幹線の方がより安全です。地震発生時にはトンネル出入り口では斜面崩壊が必ず発生します。また、トンネル内での落下物事故など不測の状況には対処はできません。時速500kmで直線走行するリニアが、長大山岳トンネルにおいて果たして安全に緊急停車できるのかなどその実態も、分かりません。東海地震とその前後に発生する糸魚川静岡構造線や伊那谷断層帯などの直下型地震の予知は極めて難しいものです。緊急地震予知を受けたら、時速500qというリニアを走らせてはなりません。

  • 南アルプス山中には「活断層」が確認されていません

 20qに及ぶ未知なる赤石山地トンネル掘削において、活断層の存在は確認されていません。また、ミリ単位の変形でもトンネル断面を支えるためには大量の鋼材が要する上に、「東海地震」への安全性をクリアしなければなりません。

※活断層とは、地下10数kmで過去に地震が発生した時の地震断層が、地上付近に確認
  できるもので、将来、地震が繰り返す可能性があるもの

  • 過去の「東海地震」で、南アルプス山地内でどのようなことが起きていますか?
  • 南アルプスは今も隆起しています。地すべり・崩壊による災害が多数発生しています。

 南アルプス中部は、高さこそ北部に一歩ゆずりますが、山脈の幅が広がって起伏量が最も大きくなることから、南アルプスの核心部といえます。そのため、分水界が複雑に入り組み、巨大な崩壊地がここに集中しています。また、南アルプス山域は、本州の中でも新しい隆起が確認されている山です。水準点の測量から求められ隆起量は2m〜4m/年です。隆起している故に、至る所に崩壊地があります。
 歴史時代に発生した東海沖地震の時、早川町七面山の大崩壊や大井川上流の千枚岳崩れがあります。長野県側にあたる小渋側から大鹿村の集落地は崩壊地に立地しています。早川沿いや小渋川沿いは急傾斜地に囲まれており、地震崩れが起きると地震ダムにより上流域の水没やダム決壊による氾濫が発生します。

  • 南アルプスにトンネルは掘れますか?
  • 一般論として時間と費用をかければトンネル掘削は技術的に可能ですが、全線の掘削に関わる期間と費用は発表された計画(Cルート建設工事費試算 5兆1千億円)の約2倍と見るべきです!! 

この試算において、自然改変への安全対策費はあるのでしょうか? リニア中央新幹線プロジェクトの根拠となっているとなる「中央新幹線 東京―大阪 地形地質等 調査報告書(平成20年度)内容も、地形地質等の一般論を概論について記述しているに過ぎません。

  • 未知なる赤石山地の掘削には危険が高く、突発的な出水事故の発生も予測困難です。

 トンネル掘削に当たっては、予測の難しい事態に遭遇し、計画以上の時間と費用を要します。当地域ではトンネルと山頂部の高度差は最大1400mと言われ、トンネルへ受ける圧縮力が大きくなります。地山圧力から受けるトンネル断面への変形にも絶えず対応しなければなりません。また、赤石山地(富士川―中央構造線間)の地質は全体が若い「付加体」で海洋底で堆積した「粘土」や「火山砕屑物」が複雑な断層関係で折り重なった「混在岩(メランジュ)」と呼ばれる地質体です。「付加体」はペラペラに変形して、頻繁に繰り返す逆断層で折り重なっています。また、赤石山地のダム堆積物中には「スメクタイト(膨張性粘土として構造物を破壊)」が検出されます。トンネルには、地下水が絶えず存在するためにトンネルの安全性維持には粘土対策が欠かせません。そのため、トンネルの耐用年数が短いとみなければなりません。こうした場所での長大トンネル掘削は未経験であり、赤石山地の地質の20qに及ぶ掘削には危険が高く、突発的出水事故などいつ発生するかなど予測困難です。

  • 土かぶり問題(地山圧力による “盤ぶくれ”)への対応は?

 「中央道恵那山トンネル」掘削時に「熱水変質帯」の影響で“盤ぶくれ”(岩盤膨れ:じわじわとトンネルが潰れる現象)が発生し、トンネルが完全に潰されたこともありました。Cルートでは、リニア中央新幹線も南アルプス通過後、飯田駅から恵那山トンネルの周辺を通過することになりますが、南アルプスや恵那山周辺では“盤ぶくれ”が心配されます。だからこそ、時間と費用が増大します。その他にも土木改変には、長野県大鹿村周辺の大規模でやっかいな「蛇紋岩帯」、トンネルの耐用年数を短くする地下水など、地質学上の問題は数限りなく多いです。

  • 南アルプスにトンネルを貫通した場合、自然・生態系への影響にどんな影響を及ぼすのか心配です。
  • 超膨大量の残土が排出されます。

 「南アルプスルート」において、膨大な排出土砂をどう処理するかということも検討課題です。これまでボーリング調査が行われた長野県大鹿村「釜沢」と山梨県「新倉」間をトンネルで掘りぬいた場合、山梨リニア実験線のトンネル内空断面積を参考にすれば、排出土砂量は 22,700×82.4m2(平方メートル)=1,870,480m3(立法メートル)となり、これに先進トンネルによる排土が加わります。この堆積は東京ドーム1.5倍以上に相当します。

  • 膨大量の山地部の残土は現地で処理されやすい。その場合、将来の土石流予備軍となります。

 長大トンネルになるほど残土処理が課題となり、河川沿いに段丘のように土砂を積み上げたり、沢を埋めてヒナ檀のような平地を作ることになります。工事用道路等の開削に伴っても大量の残土が発生し、残土問題は遠い将来まで引きずります。人の眼が届かない南アルプスのような山奥の場合は、実態さえ把握しにくいのが現状です。赤石山地や伊那谷の盆地内には多くの谷があります。なかでも「大鹿村」は地すべり地帯に集落が発達しています。安易に排土で谷を埋めて平地を造成してはなりません。山間地での造成地盤は土砂災害を貯蓄することになります。廃土を“土石流予備軍”として孫子の代へ受け渡しても良いものでしょうか。また、河川沿いの洪水氾濫原(遊水地)に廃土を投入することも危険です。

  • トンネルが基本のリニアの影響で、深刻な地下水のかく乱と枯渇が子々孫々まで負の遺産となります〜大井川、富士川、天龍川の水源である南アルプスの水資源を守って〜
  • 山は水がめです、水がめの底を切り裂くのがトンネルです

 はげ山であったら、雨水の多くが表流水として流れてしまいますが、南アルプスのように豊かな植生に覆われた山では地下浸透率が大きいです。だから、山体内には水が蓄えられています。トンネルは周辺の地下水を吸い出してしまいます。そのため周辺の湧き水が涸れ、集落を潤す川が枯れます。地下水異変に対する対策は確立していないのが現状ですが、リニアではトンネルが基本とされるため、近傍の集落はもとより、遠方の集落まで水が涸れるという死活問題が起きるでしょう。地下水異変に対する対策は確立していないのが現状です。

  • リニアで拡大する将来にわたる水の重金属汚染があります

 人の活動に原因する有害物質を含む土壌には「土壌汚染対策法」が施行されています。自然的原因によるものは同法の適用外であるものの、自然由来の重金属が含まれている場合には、トンネルや工事における残土は適切に処理されなければなりません。南アルプス地域の場合は残土からヒ素の発生が心配されています。また、身近なところでは、大鹿村釜沢地区には小日影鉱山があって鉱害が発生しています。
 一企業が大規模自然改変を行う時、土壌汚染等の直ちに表面化しない問題まで対応せずに、乱開発を断行することが予測されます。こうした水・土壌・環境汚染の問題は重要です。トンネルの掘削と廃土によって発生する水の汚染は、中山間地から盆地部では、人間生活に欠かせない灌漑用水・上水道・生活用水など見えない形で長く人の生活や健康に影響します。近年、伊那谷は温泉ブームです。飲料水には基準値以上の重金属が検出されてはなりません。重金属を含有する水は温泉水として利用されていますが。トンネルから流出する地下水には重金属などが含まれてしまう可能性があります。それらは岩石中から溶出してきます。

  • 長野県にトンネルが抜ける「大鹿村」(ボーリング調査地)、中間駅「飯田駅」設置予定の「伊那谷」の自然生態系に、リニアはどのような影響を与えるのでしょうか。
  • 伊那谷と活断層、大鹿村は地すべり多発地帯です

ボーリング調査地 大鹿村 釜沢の集落

 リニアの中間駅設置が予定されている「飯田」が位置する南信州は、両側を「南アルプス」と「中央アルプス」という3000m級の山にはさまれた地形から「伊那谷」と呼ばれ、高い山頂から2500mも下の盆地底を天龍川が流れています。このような上がり下がりの激しい地形を作り出したのが活断層です。
 昭和36年6月の大水害(三六災害)では、天龍川筋で泥流の海が出現し、扇状地や段丘上では土石流におそわれ、丘陵部や山地では斜面崩壊が一面に発生しました。土石流と山崩れによる死者は136人です。災害を起こした直接原因は梅雨期末期に発生した活発な集中豪雨です。

  • 日本の原風景が残る「大鹿村」は、「日本で最も美しい村連合」にも加盟しています


大鹿村 桜の名所「大西公園」赤石岳


雄大な赤石岳に対峙する三六災害の爪あと

 リニアが長野県側に抜ける大鹿村の釜沢地域には、絶滅危惧種の「イヌワシ」も生息する豊かな自然が残された地域です。リニアが長野県側に抜ける「大鹿村」は南北に中央構造線が通っています。西山をつくる岩石はもろくて崩れやすい「鹿塩マイクロナイト」で大崩壊を引き起こします。集落のある東山一帯はペラペラの「結晶片岩」で地すべり常習地帯です。三六災害最大の出来事は大鹿村大西山の大崩壊で、一瞬にて42名の命を奪うわが国災害史上でも稀な大惨事でした。
 私たちは伊那谷の災害にたいして、どんなことを知っておくべきでしょうか。「語り継ぐ災害の記録」をはじめとして伊那谷の多くの災害誌の冒頭には災害の原因について「伊那谷の地質が中央構造線とその周辺の破砕帯によっておこっている岩石のもろさや崩れやすさにある」と記しています。
 今回のリニア計画は、この自然生態系に大規模改変を余儀なくするものです。自然災害に関心がある人も無い人も、伊那谷の自然が自然本来の姿を見せることがあることを知ってほしいと思います。その姿とは、数10年ごとに繰り返す“天変地変”なのです。

 
 
   
     
 
イラストの説明